米国投資家にとって今年の注目は何といっても「FRB vs インフレ」ですよね。
1970年代以来の高インフレを退治するために、FRBは異例の利上げを続けているわけです。
米国人の最大の不満も足元のインフレで、今年の米中間選挙にも影響が出そうな状況。。
ところで、
FRBはインフレ退治のために急ピッチで利上げしてるわけですけど、なぜ利上げはインフレ抑制効果があるのか。これちゃんと理解してる人いますかね?
「利上げをすると景気を冷ますからインフレを抑えられる」
という具合に、浅い理解しかしていない人が多そう。。
ということで、今回は金融政策が実体経済に波及していく具体的な経路について解説します!
金融政策の効果が波及する5つの経路
金融政策が実体経済に波及する経路は5つあります。
ここでは、FRBが政策金利の引き上げ(短期金利の利上げ)を行うと、具体的にどのように実態経済に波及していくかを見ていきましょう。
①銀行貸出
FRBが利上げを行う対象は「フェデラル・ファンドレート(FFレート)」です。
FFレートとは、米国の民間銀行がFRBに預けている預金(準備預金)を貸し借りする際の金利水準を言います。
銀行はFRBに対し、一定の準備預金を預けておく必要があるんですが、例えばその準備預金が足りない場合、余っている銀行からお金を借りるということはよくあることです。
銀行にとって借入コストが上がったら当然貸出金利も上げます。
ということで、利上げが行われると銀行の貸出金利も上がります。
銀行の貸出金利が上がると、企業にとっては設備投資の採算が悪化するので、設備投資を控える企業が出てきます。
また、米国ではクレジットカードで個人が銀行から借入(リボ払い)することが多いので、クレカ金利が上がったら、借金してまで消費をしようとする個人も減って、個人消費も押さえられるでしょう。
更に住宅ローン金利の上昇は、住宅を買おうとする人の購入意欲を減退させるでしょう。
こういった経路で、銀行の貸出金利上昇は企業の設備投資と個人消費を抑制して、国内景気を冷やす効果があります。
②長期金利
FRBによって短期金利が引き上げられた場合、ほとんどのケースで長期金利も上昇します。
基本的に、期間が長い債券の方が金利が高くなるためです。
(但し、今のように近い将来の景気後退懸念がある場合、2年債金利が10年債金利を上回るというような事態が発生しますが)
長期金利が上昇すると当然、社債金利のベースも上昇します。
なので、これも企業にとっては資金調達コストが上がることになります。
これによって、企業が設備投資などを控えるようになり、国内景気を冷やす効果につながります。
③株価
短期金利や長期金利が上がると通常株価は下がります。
株価は、理論的には「将来の全てのキャッシュフローを一定の割引率で割り引いた現在価値」として求められます。
そしてこの”割引率”は国債利回りに一部連動しているのです。
つまり、短期金利が上がると国債利回りが上昇し、割引率も上昇します。
割引率は、理論株価を求める計算式の分母に位置するので、割引率が大きくなると当然理論株価は小さくなります。
こういったことから金利が上がると株価は下がるのです。
株価が下がるということは、企業にとっては同じ数の株式を発行しても調達できる金額が減ります。
つまり資金調達コストが上がるということです。
①、②でも説明の通り、資金調達コストが上がると設備投資が控えられて景気を冷ます効果があります。
また、米国では多くの個人がある程度の割合で株式を保有しています。
株価が下がると、個人の金融資産もダイレクトに減るので、これによって個人の消費マインドが冷えます。
こうした効果は一般的に”資産効果”と呼ばれます。
④地価
金利が上がると株価が下がるのと同じ理由で地価も下がります。
土地の値段というのは、将来の賃貸収入を割り引いて現在価値にしたものなので、割引率が上がると地価も下がるということです。
米国では日本以上にマイホーム率が高いです。
よって、地価が下がることは自身が保有する実物資産の下落を意味します。
これも資産効果として、個人の消費マインドを冷ます効果があります。
⑤外国為替市場
米国の金利が上がるとドル高になります。
外国との金利差が拡大すると、投資家が少しでも高い金利の通貨を求めて買うようになるからです。
実際、現在のドルは世界的に独歩高の状況です。
ドル円も歴史的な円安ドル高水準になっていますね。
日本では急激な円安で輸入物価が上がってインフレを発生させてしまっているわけですが、逆に米国にとって急激なドル高は輸入物価を下げる効果があります。
つまりドル高はダイレクトにインフレを抑制する効果があります。
また、ドル高になると輸入ではメリットがある分、輸出には不利に働きます。
よって輸入は増える一方、輸出は減るのでグローバル企業の利益が減るので、それに伴って人員削減などが行われ、国内景気を冷ます効果があります。
金融引き締めは需要も冷やすが供給も冷やす
上述の通り、金融政策の実体経済への波及経路を5つ紹介しました。
しかし、ここまで見てくると一つわかることがあると思います。
それは多くの経路で「企業の設備投資」も抑制しているのです。
つまり、利上げ(金融引き締め)は需要(個人消費)を抑える効果がある一方で、供給(企業の生産)も抑制する効果があるのです。
翻ってインフレ抑制に話を移しましょう。
物価というのは需要と供給のバランスで決まります。
「需要>供給」であれば物価は上がり(インフレ)、「需要<供給」であれば物価は下がります(デフレ)。(もちろん、コストプッシュインフレなど他要素もありますが)
本来、インフレを抑制したいなら、需要を減らして供給を増やせばいいわけです。
ところが今の金融政策では需要と供給のどちらも減らす政策をやっているわけです。
これは、需要だけを減らせる都合の良いマクロ政策が今のところ存在しないことが理由です。
ただ、基本的には供給というのは需要を追いかけるものです。
よって需要が押さえつけられている間にいずれ供給が追い付きます。
ということで、利上げというのはインフレ抑制する上で最善の金融政策なのです。
まとめ
- 金融政策が実体経済に波及する経路は5つある。
- ①銀行貸出金利↑:企業の資金調達コストが上がるため設備投資意欲が冷え、個人にとってもクレカ消費、住宅購入意欲が下がる。
- ②長期金利↑:社債金利も上昇して企業の設備投資意欲が冷える。
- ③株価↓:企業の資金調達コストが増えるため設備投資意欲が冷え、資産効果で個人の消費マインドが冷める。
- ④地価↓:資産効果で個人の消費マインドが冷める。
- ⑤ドル↑:ドル高で輸入物価が下がり、輸出も減ってグローバル企業業績低迷により景気が冷える。
- 利上げは需要だけでなく供給も押さえつけるが、需要と供給はいずれバランスする力が働くので、利上げはインフレ抑制する上で最善の金融政策として考えられている。